5年で2.4倍。心の労災が増え続ける現場で、私たちができること
- 2026.08.14配送コラム
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5年で2.4倍。心の労災が増え続ける現場で、私たちができること
HOUND JAPAN COLUMN
距離の取り方は、才能ではなく技術です
現場で働く以上、人間関係のストレスとは誰もが隣り合わせ。
フリーランスのドライバーが身につけておきたい、しなやかな処世術の話。精神障害による労災申請が、この5年でおよそ2.4倍に増えている——。日本経済新聞(2026年7月18日)が報じた記事のなかで、産業医科大学の江口尚教授は、パワーハラスメントを職場の「必要悪」とみなす発想を改めるべきだと語っています。
この話題は、一見すると会社勤めの人の問題に見えるかもしれません。けれど、荷主・元請け・現場担当者とやりとりを重ねる軽貨物ドライバーにとっても、決して他人事ではないはずです。むしろ組織に守られない分、自分で自分の環境を整える技術が求められます。
今回は、フリーランスとして長く走り続けるための「距離の取り方」について考えてみます。
「打たれ弱い」のではなく、育った環境が違うだけ
記事のなかで、印象的な指摘がありました。若い世代は義務教育の頃からスクールカウンセラーなどの支援に触れて育っており、いわば「支援を受けることのプロ」として社会に出てくる、というものです。
これは弱さではありません。困ったときに人を頼れるというのは、本来とても健全な能力です。ただ、現場に「厳しく当たるのが指導だ」という価値観が残っていると、その差がすれ違いになる。どちらかが悪いのではなく、前提としている常識がずれているだけなのです。
この構造を理解しておくと、少し気持ちが楽になります。強い口調で言われたとき、「自分がダメだから」と受け取るのではなく、「この人はそういう作法で育ってきたのだな」と一歩引いて眺められる。それだけで、心に届くダメージはずいぶん変わってきます。
明日から使える、フリーランスの距離の取り方
では、具体的にどう振る舞えばいいのか。特別な話ではなく、地味な作法の積み重ねです。
① 記録を残す習慣を持つ
やりとりはできるだけ文字で残す。指示内容、変更点、時間。口頭で受けたことも、あとから一言「先ほどの件、◯◯で承知しました」と送っておく。これは相手を疑うためではなく、お互いの記憶違いを防ぐための作法です。結果的に、自分を守る材料にもなります。② 感情ではなく事実で返す
強い言葉を投げられたとき、感情で応じると話がこじれます。「できません」ではなく「この時間からだと◯件までが確実です」。反発ではなく情報で返すと、相手も冷静さを取り戻しやすくなります。③ 断る言葉を、あらかじめ用意しておく
その場で考えるから断れない。「本日はこの後の予定があるため難しいです」といった定型文を一つ持っておくだけで、無理な受け方をせずに済みます。④ 一人で抱え込まない窓口を知っておく
2024年に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注事業者にハラスメント対策の体制整備が求められるようになりました。相談窓口は行政にもあります。「言っても無駄」と思い込む前に、選択肢があることを知っておく。それだけでも心持ちが変わります。どれも派手さはありませんが、これらは性格ではなく技術です。技術である以上、後から身につけられます。
一社に依存しないことが、最も静かな防御になる
とはいえ、技術だけでは限界があります。人間関係が苦しくなる最大の原因は、多くの場合「ここを失ったら終わりだ」という感覚だからです。
逆に言えば、収入源が複数あるだけで、同じ言葉の重みはまるで変わります。理不尽な要求に対して「それは受けられません」と言えるかどうかは、本人の胆力よりも、背後にどれだけ選択肢があるかで決まる。軽貨物という仕事が持つ強みの一つは、案件を組み替えながら自分の働き方を設計できる点にあります。
そしてもう一つ。そもそも、そういう空気が生まれにくい現場を選ぶという方法もあります。ハラスメントは個人の資質だけで起きるものではなく、それが許容される構造があるから続いてしまう。裏を返せば、環境が整っていれば、人は自然と丁寧に振る舞うようになるのです。私たちが現場づくりにこだわるのは、そこに理由があります。
耐えることが評価される時代は、静かに終わりつつあります。フリーランスとして長く走り続けるために必要なのは、我慢の量ではなく、逃げ道と選択肢の数。
その設計こそが、いちばん確かな自己防衛なのだと思います。働く・独立するという選択肢